協力ギャラリー
アートで起業できるまち
北茨城市は「芸術によるまちづくり」の一環として2017年より地域おこし協力隊制度を取り入れて、表現者が起業できるまちを目指しています。ぼくは芸術家として2017年に東京からこのまちに地域おこし協力隊として移住して、任期を終えて、その後もアート活動をしながら北茨城市に暮らしています。ぼくの場合は、3年間の取り組みが里山に景観をつくる「桃源郷づくり」へ発展したおかげで集落支援員という仕事とアート制作の二本柱で生計を立てることになりました。
みなさんは「アートで起業する」という言葉を聞いたとき、どんなことをイメージするでしょうか。そもそもアートってどうやってお金にするの? とか、それで食べていけるの? とか疑問があるかと思います。ぼく自身もそうでした。北茨城市に暮らす前は、有名ギャラリーに所属して作品を何百万円で売っている作家さんや、美術館でしか作品を鑑賞できないような作家の伝説しか知りませんでした。つまり身近にアートを仕事にしている人を知りませんでした。
ところが北茨城市に移住してみると、このホームページで紹介されている今を生きている先輩芸術家の方々たちと知り合うことができました。名前を聞けば誰でも知っているほど有名ではありません。それでも、みなさん、それぞれのやり方で作家として生活をしているのです。アートや芸術というと実態の分からない職業にイメージされがちですが「アートで起業する」という文脈で説明するなら(そのほかたくさんの要素がありますが)最大公約数のひとつとして「商品をつくってそれを販売する」と言うこともできます。作品を商品に例えたら怒られそうですが、まずは作品をつくって、それがお金にならなかったら安心して活動も続けられません。そういう視点から捉えるとイメージしやすいのではないでしょうか。
ではどのように作品を販売しているのか北茨城市で出会った先輩作家さんの例をいくつか紹介します。具体的に名前を出すと制作の秘密を明かすことになってしまうので匿名で書きます。
陶芸をやられているご夫婦の作家さんは、お米や野菜をつくる農家でもあります。このご夫婦が年に一度開催する展示では、自分たちで作ったお米と育てた野菜を調理して、展示に足を運んでくれた人たちに無償で振る舞うのです。その料理の器はすべてご夫婦がつくった陶芸作品です。つまりすべてが作ったものなのです。想像してみてください。展示に行くと質素でありながら手作りの食事を出されるのです。当然ながらとても美味しいのです。そこで出された、お米と陶芸作品が手頃な値段で販売しています。どうでしょうか。何も買わずに帰りますか?
ある画家さんは、朝9時~17時、毎日きっちり机に向かって絵を描くそうです。たくさんの作品をつくり、たくさんの展示を年間いろんな場所で開催しています。本当に美しい絵を描く技術も素晴らしいのですが、ご本人もできる限り会場に足を運んで、なんと接客もするのです。例えるなら絵を描くアスリートだと思うのです。作家本人が作品のことや制作のこと、いろんな話しをしてくれます。また作品を購入したあとも丁寧で、作品をつくることだけでなく、届くところまで表現しているのです。
また別の画家さんは、サーファーから転身して画家になる決意をしました。そのことをギャラリーに相談すると「それなら山に籠って絵を描く覚悟でやらなければ」と言われ、本当に山の中に籠って自分の絵を探究したそうです。そうやってはじまった絵を描く日々は今でも続いています。自然と向き合いながら丁寧に重ねられた色とカタチ、その絵は祈りのようです。いつも静かに優しく傍にいてくれるような絵なのです。そして画家になるきっかけをつくったギャラリーと組んで作品を世の中へと展開しています。
ぼくは北茨城市に移住して4年が経ちました。その間に先輩作家の作品を幾つか購入しました。先程は、作品を商品と書きましたが購入してみれば分かります。どうして、それが商品と区別されるのか。商品は字のごとく費やされ消えてしまいますが、作品はむしろ成長するのです。このことについては、また別の機会に書こうと思いますが、ピンと来る作品や作家さんに出会ったなら、ぜひ購入してみてください。きっとこのことが分かるはずです。
表現者と一括りにしても、表現方法も活動の仕方も違います。そこにきっと共通しているのは「制作を生活の中心にして、よりよい作品を目指し、作品を愛してくれる人に出会う機会をつくる努力をする」だと北茨城市に来て教えてもらったように思います。
さて「アートで起業する」ということのイメージが出来たでしょうか。アートで起業したい!と興味を持って頂きましたらぜひ北茨城市までお問い合わせください。答えがあったりやり方が確立されている訳ではありませんが、いろいろなサポートをご用意して、お待ちしています。