レポート
五浦天心焼展&第2回陶器デザインアイデアコンテスト レポート
今年も残り僅か。
息つく間も与えてくれない時間の流れの中。やっと一息つけたときにはもう、吐息が白く濁りはじめている。
毎年暮れに開催される五浦天心焼展&陶器デザインアイデアコンテスト入賞作100点展示会。
10人の陶芸家の作品と、一般応募の中から選出された100点のデザインを基に陶芸家が制作した作品が並ぶ。
会場を見て回っていると、ある方が声をかけてくださった。
菊地秀利さん。
今回出品している陶芸家の一人である。
お茶目でとっても気さくな方。取材の度に思い知らされるのだが、芸術家の方はどうしてこうも良い方ばかりなのか。
菊地さんは1999年に、奥様のご実家がある北茨城に移住してきたそう。奥様が趣味でやられていた陶芸を「せっかく窯があるなら・・・」と何の気なしに始めた菊地さんが、今では“NO TOGEI,NO LIFE”といったご様子。
しかし陶芸の枠だけには収まらない。菊地さんは農業もやられており、毎年秋にはご自宅で新米の試食会を行なっている。試食会で使う器はもちろん、菊地さんご自身がこしらえた陶器。手に取る器から、口に入る食材まですべて、自らの手でデザインする。
まさに「食」のアート。
私も菊地さんのココット皿を購入させていただき、「食」のアートを実践。
キッシュに、アヒージョ。
耐熱なので、用途は無限にありそうで、料理がたのしくなる。
黒毛和牛のステーキや鮮魚のお造り、豪華な食材が並ぶ食卓ももちろん“豊か”な食ではあるけれど、本当の“豊か”な食とは、こういうことなのかもしれない。
菊地さんも毎朝、自身の作ったココット皿で卵とベーコンを焼くのだそう。
「私はお米を作っているけど、朝はパン派でね。」とはにかみながら話す菊地さんを見ると、ファンにならないわけがない。
陶芸家手づくりの土鍋で炊いたご飯は、きっと絶品。
炊きたてのご飯のにおいだけで、ご飯が進みそう。
吹きこぼれないよう蓋が二重になっているのも、菊地さんのやさしさ。
作り手の思いやりが使っていく中で感じられると、さらに愛着心がわくだろう。
菊地さんの作品で興味深いものがあった。
「珈琲釉湯呑み」
コーヒーの豆粕を800度の窯に入れて灰にし、その灰を釉薬に混ぜる。
釉薬(ゆうやく)とは、陶器の表面を覆うガラス層のことで、陶器のツルツルした肌触りはこの釉薬の質感である。
自作の灰を混ぜてできたオリジナルの釉薬は、安定性を失くすゆえ作品に動きが現れる。「安定していないのがおもしろい」と菊地さんは話す。
さらに菊地さん宅には、ガスの窯と灯油の窯があるようで、ガス窯のほうが安定性を持っているのだが、あえて灯油の窯を使うことが多いそう。同じ要領で焼いても、同じ姿で現れてくれない。毎回窯を開けて現れるのは「失敗」の2文字。「それがまたおもしろい」と菊池さんは笑う。
「不安定」に面白味を見出す芸術家の話こそ、おもしろい。
菊地さんの陶器の釉薬にはすべて灰を混ぜてあるそうなのだが、木灰であったり、藁灰であったり、先述のコーヒーの豆粕であったり、作品によって使われる灰の原料が異なる。木灰は、ご自宅の薪ストーブから生まれた灰や、リンゴ農家から剪定して要らなくなったリンゴの木を譲り受けて灰にしたもの。藁灰はもちろん、菊地さんご自身で育てたお米の藁から。コーヒーの豆粕もコーヒーを抽出した後は捨てている方が多いのでは。すべて、身近にある「通常なら捨ててしまうもの」を再利用して、作品の一部にしている。
陶芸は地球にもやさしい。
今回が第2回目の開催になる陶器デザインアイデアコンテスト入賞作100点展示会。
一般応募で集まった624点の中から選ばれた100点。
どの作品も型にはまっておらず、発想のユニークさに感心させられる。
陶器と聞くと、どうしてもお皿や湯呑みなど、「食」で使われるものをイメージしてしまいがちだが、集まったアイデアは「食」に限らず、普段の「生活」で使われるもの。
陶芸に馴染みがないからこそ、生むことのできるアイデアの数々。
陶芸家である菊地さんも感賞されるほど。
ふるさと北茨城への想い。
応募用紙におさまり切らなかった溢れ出る想い。
息子へのお父さんの想い。
市外、県外からの応募もあり、コンテストを通して街と街がつながり、人と人がつながる。
陶芸が街と人のパイプになっている。
また一年後、さまざまな想いが陶芸という架け橋を渡って伝えられるのだろう。
地域レポーター 末長沙千