レポート
小板橋 弘・恵 二人展 日本画と裂き織 体験レポート 〜かつらぎ画廊〜
「威厳」というタイトルの海の絵。わたしはこの絵から、それほど恐怖心のようなものが感じられませんでした。襲いかかる波に対する恐れというよりは、海の偉大さに対する恐れ、そして少しだけ高揚感のようなものが感じられたのです。
今回お話を伺うことができて本当に良かったと思ったことがあります。小板橋さんの作品を一通り見ると、小板橋さんは自然を愛してるんだなとすぐに解りました。でも、いくつかある海の絵の中で、高く上がる波が描かれたこの1枚だけが、他の海の絵とは違う臨場感を放っていたんです。「あの絵はどうして『威厳』というタイトルを付けたのですか?」そう質問すると小板橋さんははにかみながら「実は昔、波乗りをやってまして。」と、波乗りをやっていた頃の記憶を語ってくれました。
東日本大震災を機に引退されたそうですが、現役当時は、波乗り仲間と一緒にフィリピンの海まで足を運んでいたそう。そこは世界中のサーファーが集まる、知る人ぞ知るフィリピンのサーフスポット。独特の地形から生み出されるパワフルな波によって、サーフボードを折る人はもちろん、海底の岩やサンゴに頭を打ち付けられ命を落とす人もいるといいます。その場所の名がまさに「マジェスティック(=威厳)」。
お話を伺っているうちに、小板橋さんの海に対する思いが伝わってきました。「威厳」という海に秘められた、恐れの中にある高揚感、高揚感の中にある恐れ、それは海の実体を知っている小板橋さんにしか表現できないんだと思いました。
他にも海の絵はありますが、「海」とひとくくりにして良いものか迷ってしまうほど、ひとつひとつ違う存在感を持っています。海の向こうにある小板橋さんの心情と視点がそれぞれ違うということだと思います。わたしはピンク色の雲を浮かばせているこの海をずっと見ていたいと思いました。自然が出す色と、小板橋さん心の色が重なり、新しい色が創り出されています。優しい波の音が聞こえてくるようです。海以外にも、山や滝、植物など自然を感じられる作品が多く、柔らかな筆のタッチに、小板橋さんの人間性が表れています。
ギャラリーの一部のスペースで小板橋さんの奥様の裂織りの作品を展示しているのですが、すべて佐渡の地機「ねまり機」という織機を使用して作ったものだそうです。最近では卓上の簡易的な織機も多くありますが、一般的に織機といえば、椅子に腰掛け、ペダルを踏みながら織る高機が主流です。佐渡の地機「ねまり機」は、腰にベルトを巻き、自分の体重で経糸の張り具合を調節する織り方です。腰で固定している以上、一度織り始めるとなかなか動けないそうで、作るのに体力はもちろん時間も必要となります。さらに柄を出すとなると、気が遠くなる作業だと思います。緻密で繊細な柄や色使いにもやはり、奥様の柔らかくて可愛らしい人間性が表れていました。
画家の毛利さんもそうでしたが、ご夫婦の仲の良さも良い作品を生む源になっているのかもしれないですね。
地域レポーター 末長 沙千